福岡高等裁判所 昭和35年(ネ)428号 判決 1960年12月26日
佐賀県神埼郡神埼町大字的字仁比山一、七二八番地
控訴人
高取二郎
被控訴人
国
右代表者法務大臣
植木庚子郎
右指定代理人
小林定人
同
元水文雄
右当事間の昭和三五年(ネ)第四二八号納税告知書の無効確認並びに納税金還付請求控訴事件について、つぎのとおり判決する。
主文
控訴人の当審における新訴を却下する。
金員の支払を求める請求についてなされた原判決に対する
控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「(一)原判決を取り消す。(二)(イ)(新請求)被控訴人が昭和二二年九月一日附財産税課税価格更正または決定等通知書をもつて、控訴人に対してなした財産税額の更正決定処分及び(ロ)同年一〇月二〇日財産税課税価格調査簿兼台帖に対して加えた財産税額の誤謬訂正処分、右両者に関する処分行為は、いずれも取り消す。(三)被控訴人は控訴人に対し金四八、一三四円及びこれに対する昭和二八年四月三日から一日一〇〇円について金四銭の割合による金員を支払わなければならない。(四)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。
事実及び証拠の関係は、
控訴人において「被控訴人は控訴人に対し昭和二二年九月一日附財産税課税価格更正または決定等通知書(甲第九号証)をもつて財産税の更正決定処分を通知した。そこで、控訴人は同月二八日再審査申請書を提出したところ、被控訴人は直ちにこれを容れ、高取ハナは控訴人の同居の家族ではないという理由で財産税課税価格調査簿兼台帖(甲第五号証)に対しつぎのとおり誤訂を加えた。すなわち、同台帖における高取ハナに関する部分を悉く赤インキで抹消し、ハナの財産税は全額取り消した。しかるにハナを控訴人の同居家族として財産税の決定処分をし、その余の原判決事実摘示三の控訴人の同居家族でない右ハナ、狩野雄一郎、サトを同居家族と認めて、控訴人を加えて四名分を連記し、かつこの四名分の財産税を合算按分した税額を正当とした財産税の決定通知及び台帖の誤謬訂正処分が取り消されなければならないことは云うまでもない。もとより控訴人は前示台帖の存すことを知らず、被控訴人がこれに対し加えた誤訂処分の内容を法に違反し控訴人に通知しなかつたため、控訴人はこれを知らず、昭和三一年一〇月二四日になつて初めて、台帖の存すること並びにこれに対し加えられた誤謬訂正処分の内容を知つたのである。更に台帖には誤算という致命的なかしがあることも指摘せねばならない。誤謬訂正後の控訴人の財産税額には狩野両名の財産税をも含んでいることは、被控訴人の主張するところであるが、台帖の記載を計算すれば、誤訂後の控訴人、狩野両名の三人分の合算額は四六七、九四〇円で、誤訂前の右三人の申告合算額は四〇九、五九〇円で、その差額は五八、三五〇円となり、被控訴人のいうように差額四一、四七〇円、加算追徴税二、二七二円三〇銭計四三、七四二円三〇銭という計算とはならないのである。この誤算という一点からも台帖は当然速かに訂正取り消さるべきである。
つぎに金員の支払を求める請求について附加陳述すれば、控訴人に対する財産税は狩野両名を同居家族として合算している違法があるばかりでなく、かりに右両名が同居家族であるとしても財産税法第四六条に違反するので、結局これを還付すべきであるが狩野両名が控訴人の同居の家族でないことが明白であるから、右第四六条をまつまでもなく、これを控訴人に還付すべきである。
控訴人の当審における新請求は不適法ではない。一、本件は行政事件訴訟特例法の公布前訴願前置の要件を満たしている。すなわち、甲第九号証の通知に対し控訴人が再審査請求(訴願)をなしたので、これに対し被控訴人が誤謬訂正処分(裁決)をしたことは台帖により容易に確認されうるところであるばかりでなく、前陳のように、誤謬訂正処分(裁決)に基づいてなした高取ハナに対する処分取消の通知をせず、控訴人の右訴願に対する裁決の通知もしていないので、控訴人はこれに対する不服申立の機会を有しなかつた。これは被控訴人の重大な手続違法である。二、被控訴人は昭和三五年七月になつて初めて狩野両名が控訴人の同居家族でないことを認め、かつ右両名を取り消し削除することを自認した。かくて控訴人は甲第九号証の通知及び台帖の誤訂処分の取消を請求しうる段階に到達した。換言すれば被控訴人はついに、その誤れる同居家族判断の取消処分を必要と認めた結果、同年七月控訴人に対し裁決の通知をなしたことになるのであるから、結局本訴は期間内に提起されたことになる。三、特例法第三条第七条により本訴は適法である、なお納税告知無効確認の訴は取り下げ、控訴の趣旨(二)の(イ)表示の更正決定無効の請求を同決定を取り消す旨の請求に改め、新に同(二)の(ロ)の請求の訴を提起する。」と述べ、甲第九号証を提出し、
被控訴人において「(1)本件新訴は別記準備書面のとおり不適法である。(2)控訴人の物納申請に対し佐賀税務署長が許可したかどうかは関係書類保存期間経過後であるため不明であるが結果的に見て不許可処分がなされた(財産税法施行規則第五八条参照)ものと推認される。(3)控訴人に対する本件課税処分は、控訴人の申告に対して所轄税務署長が更正処分(後に誤謬訂正処分)をなし、控訴人に対するその更正通知(控訴人のいう更正決定通知)によつて確定している。控訴人から審査請求がなされて、それに対するなんらかの通知をしたかどうかも書類の保存期間経過後であるため不明であるが、この審査請求は税務署長が高取ハナを控訴人の同居家族として更正処分した(誤訂前)ことのみに対する不服申立である。しかし、この審査の目的とする処分は、審査請求における不服事由と同様の事由によつて、後に署長が誤訂処分をなし、それは控訴人に通知されたところであり、すでに審査の対象とすべき処分事由は消滅してしまつているので、かりに控訴人に対しなんらかの通知をしなかつたとしても違法ではない。」と述べ、甲第九号証の成立を認めると述べた外は、原判決摘示の関係部分の記載と同一であるからここに引用する。
理由
昭和二二年一〇月二〇日財産税課税価格調査簿兼台帖に対し加えられた財産税額の誤謬訂正処分の取消を求める訴は、法律上許されない不適法な訴であるばかりでなく、この訴及び同年九月一日附財産税課税価格更正または決定等通知書をもつてなした財産税額の更正決定の取消を求める訴は、被控訴人の別記準備書面三記載のとおり当事者適格を欠くので不適法な訴であり、かつ、後者の訴は出訴期間を経過している点からも不適法であることは記録上明らかであるので、右各訴は却下を免れない。
金員の還付を求める請求は成立に争のない乙第一ないし三号証に徴し、かつ、原判決のこの点に関する説示と同一の理由により棄却すべきである。
よつて、当審における各新訴を却下し、控訴を棄却すべく、民訴第三八四条第九五条第八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 秦亘 裁判官 高石博良 裁判長裁判官鹿島重夫は転勤につき署名押印することができない。裁判官 秦亘)